プロフィール
ひなびや
ひなびや
固定種、自家採種の野菜の販売をしています。
京都の農業法人に5年勤め(夫)、2010年より新城にて夫婦ふたりの自営農業を始めました。
在来種や日本各地の伝統野菜を含めた固定種を、できるだけ自家採種をし、農薬、化成肥料は使わず、少量多品目でいろいろ作っています。
有機肥料を含めた肥料分にもあまり頼らず、ゆっくり時間をかけて栽培しています。
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2014年09月24日

野生の風

久々の雨が地面に染み入っていく。
その様を見ながら、
逸ノ城が大関を破った一番をラジオで聴いていた。
わたしはこの遊牧民出身の怪物力士のとりこになりながら、
あの夏の日のことを思い出していた。

北京から列車で国境のエレンホトまで行きモンゴルに入った。
モンゴルに入ると雰囲気は変わり、駅の建物などがロシア風になった。
そのあたりは乾燥した砂漠に近かった。
さらにウランバートルまで列車で行った。
ウランバートルの郊外は美しい草原がひろがっていた。
モンゴルの草原に生える草は、香草、ハーブの類でいい匂いがした。
そしてちょうどナーダムの直前だった。
遊牧民たちが直前のキャンプを張っているのを訪ねた。

夕方、遊牧民の子ども達が歌をうたいながら、馬の世話をしていた。
大草原の夕暮れの景色と、子どもたちの透き通った歌声は、
空に輝き始めた星と響き合っているかのようで宇宙的だった。

わたしたちはどうしようもなく、ある「枠」の中で生きている、
というか生かされているものだが、
その外で生きている人々に触れ合うのは、
とても心地がよかった。

そこの大家族の長老は近寄り難い偉大な雰囲気をもっていた。
長老はわたしに喉と胃が火傷しそうなウォッカを注いでくれた。
しかしとてもわたしには飲めそうにないので、
長老がよそ見をする時に、
ばれないように冷や冷やしながら、地面にこぼしたのであった。
ウォッカが草原に染み入っていった。

長老は威厳にあふれていた。
あるがままに自然と調和し、過剰な欲を持たずに生きていくことだけが、
ある「枠」のなかで生きている日本人のわたしが、
「本醸造しあわせ人生」ではなく
「しあわせ風調味料人生」となってしまうことにレジストし、
これからの激動の世界をサバイブしていく唯一の手段であることを、
長老は体現していた。
わたしは長老の一挙手一投足をリスペクトしながら見つめていた。

長老は崇高なオーラを発しながら立ち上がり、
人の輪の外へぬけて、十歩ほど歩き、立ち止まった。
そしてそこで大地に祈りをささげるのであろうか、
「考える人」のようなポーズでうずくまり、
微動だにしない。

空は暗くなり、満天の星たちが、
モンゴルの大草原と、
それに祈りをささげているのであろう重厚な長老を照らしていた。
長老はポーズを決めたまま、全く動かない。

わたしは長老の祈りを、この目に焼き付けておきたいと思い、
邪魔をしないように、そっと近づいていった。
一歩、二歩、三歩・・そして
「あっ!」

長老は、

小便をしていただけであった。



by沢木ラモ太郎



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Posted by ひなびや at 22:33
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