ひなび舎だより　～たねとり農家のひなびた暮らし

携帯電話が世の中に普及し始めた頃に
中国のどこの街だったか忘れたが
こんな光景をよく見た。

携帯の着信音が鳴る。
誰かの携帯電話がなっているぞ。
誰だ、どの人だ。
携帯は鳴り続ける。
誰だ、誰だ。
周囲の関心を存分に惹きつけたところで
一人が携帯を取り出し、
注目の中、得意気に話し始める。

これなんかは典型的な中国人気質で
逆なのが日本人かなぁ、などと思う。



あれは京都に居たときだったか、
村の寄り合いのような場所に出席した。

平均年齢は80歳近かった。

寄り合いの議題が進んでいく中、
唐突に、それは鳴った。

エリック・クラプトンの『いとしのレイラ』のイントロ部分だった。
しかもけっこう高音質であった。

誰かの携帯の着信メロディーが鳴っている。
でも、誰が？

信じられない光景だった。

平均年齢80歳のこの会合の部屋に
『レイラ』が鳴り響いている。
どのおじいちゃん、もしくはおばあちゃんなのか？
なぜ誰も携帯を取り出して電話に出ないのか？
そしてなぜ、この着メロをチョイスし、どうやって設定したのか？

それができそうな人は
見渡しても誰もいない。

そう思っていると着信音は鳴り止んだ。
誰も顔色を変えずに議題を進めている。

大丈夫か？
ここにいるおじいちゃんかおばあちゃんの誰かに急用があるかもしれない。
わたしは動揺していた。
でも誰も今のは無かったことのような顔をしている。

「あっ！」
わたしは思わず声を発した。
静寂を切り裂くように
また『レイラ』の最初の７音が鳴り響いた。

早まる胸の鼓動をじらすように
次のギターの７音が鳴る。

そして静まり返る部屋の中
真っ暗な夜をひっくり返す稲妻のように
サビのメロディーが激しく誰かの携帯から掻き鳴らされた。

またしても信じられない光景だった。
日本の近代化は終わった、と思った。

誰だ、誰の携帯だ。
無言の中、電話に出る人はいなかった。

長い、とても長い時間に感じられた。
しかし、誰も電話に出ることは、なかった。
そして
うやむや、となったのであった。

なぜ、あのタイミングであの着信が鳴ったのだろう。
おかげでクラプトンのあの名曲が
それ以来まともに聴けなくなってしまった。

なぜ、あのタイミングで･･･。




今夜は寒いですね。
スターウォーズの話題でもちきりです。
もう他にどんな話題があったか忘れてしまいました。